【ECプラットフォーム】日本国内Eコマース、2023年の事情を徹底展望
2023.02.17

この2~3年は激しくECを取り巻く環境が変化しています。
テクノロジーの進化に社会の変化も加わり、既存のセオリーがどんどん書き換わっている状況があります。ECはその波をまともにかぶっているカテゴリーです。
2023年は世界的に潮目が変わるのではないかと言われています。そうした潮目をしっかりと見るために、まずは現状を振り返りつつ、今後の日本のECプラットフォーム事情を展望して解説します。
CONTENS
2022年までのECプラットフォームの現状とトレンドを振り返る
ECの状況はこの10年で大きく変わってきました。コロナ前後での変化もありますが、それ以前からいろんなことが変わってきています。
近いところから行くと、まず一つはSaaS型のECプラットフォームの存在感がこの数年で大きくなってきていたことがあります。「クラウドEC」という呼ばれ方とともにかなり多くの人が知る存在になってきました。
自社でECサイトを持っている場合、成長の状況に合わせてリニューアルする機会があります。そうした時の選択肢としてこのクラウドECが注目されていましたが、それがかなり定着してきたという印象です。
当初は投資を引き出すためにとりあえず「Saas」という言葉が使われていた印象も正直ありました。しかし、ここにきてしっかりとサービスを運営しているベンダーだけが残っていくという淘汰の時期を経過してきた印象があります。
また、もう一つはO2Oへの注目度の高さが年々増しているということ。これもまさに最近のトレンドです。実際に知名度のある小売販売ではO2Oが効果を上げている現状があります。それに合わせてECプラットフォームも対応をし、売り上げを伸ばしているパターンもありました。たとえばこの代表例ではヨドバシカメラがあります。ヨドバシカメラはECの充実とともに実店舗のモデルルーム化を押し進め、成功しています。
背景にあるのは顧客との結びつきです。オンラインとオフラインの垣根を取り払って強めていくという部分です。世界的規模では増加している人口も日本国内で見た場合は逆に減少していく流れがあります。そのため、生涯客単価をいかに上昇させていくかが今後の課題です。そうした面でもO2Oの効果が期待されています。
2022年は世界的にはコロナの影響から脱して経済的な動きを強めている国も多くあり、世界経済は大きく動きました。一方でウクライナとロシアとの戦争勃発は世界に影を落としており、そうしたコスト高と物流の停滞を前提にした動きはまだ続いています。
変化する行動様式
日本でも半導体の不足による品薄、電気代の高騰などで「できる限り消費しない」「コストパフォーマンスをよくする」といったことが引き続き注目されています。また若者層の行動から「タイパ」という言葉が注目されています。これはタイムパフォーマンスの略です。
動画などを早送りで見たり、あらすじだけを読むといったことで時間に対するインプット量を最大化しようという考え方です。これが実際に効果があるかという話題は別にして、そうした行動様式はECのマーケティングに大きく関連するSNSなどの動向に影響が少なからずあります。
実際にはこの数年は行動へのトリガーが大きく変化していきている時代でもあります。日本ではSDGsについての啓蒙を義務教育の中で取り入れるという流れからも見えるように変化は急激に進んでいます。
自分のための消費から人のための消費のほうが財布の紐が緩いというマーケティングにおいてのリサーチ結果もあります。その中でECによる取引の規模はそろそろ天井が見えてきているとも言われていますが、まだまだ売り上げ規模は上昇しています。
2023年のECプラットフォームへの期待値はただ多機能なだけではなく、ユーザーに寄り添い、客単価を上げていけるデザイン、システムであるかということになってきているようです。
また、労働力はますます貴重になってきています。効率よく運用できるショップであるということがますます求められています。
2022年に期待されていたこととその評価
2022年は日本ではまだコロナの制限傾向がありましたが、後半にはムードがかなり緩和されてきました。それにともなってオンラインからオフラインへと消費が戻っている傾向が確認されています。
実際のところ、コロナはECにとっては追い風でしたが、その流れに少し陰りが見えてきています。これは世界的な動きでもあり、販売する商品の不足なども影響しています。
ECの伸びの足を引っ張ったもう一つは安全性と言われています。クレジットカードナンバーの偽造などが行われたことでCtoCで大きな市場を形成しシェアを握っていたメルカリは、実際に大きなダメージを受けています。
今後、3Dセキュアの導入など、ECプラットフォームそれぞれが足回りを対策することがニーズとして大きくなっています。また、法整備などは進んでいない状況でしたが、より厳格化を求めるように変化していく可能性があります。
クレジットカード被害はユーザー保護としても重要ですが、何よりサイト運営を守るものとしても導入が推奨されます。そもそもクレジットカード利用について、利用者は保証されますが、販売者は保護されない仕組みになっています。
近年、急速に成長し、高い人気を誇るCtoCの雄だったメルカリがクレジットカード不正により多くの損失を被っているというこの話は他人事ではありません。メルカリ自体はトップクラスの技術者を集めていることで話題になったこともある企業です。そうした環境を作っていた企業でもこうした状況を生んでいるという話は頭のいたいところです。
メタバースなど新たなオーダーシステムはどうなるのか
先進技術系のトピックとしては仮想空間を利用したメタバースが一般化してきていることで、今後ECにメタバースを活用していこうという試みが行われています。
ECでも積極的に取り組む流れがありますが、実際にはまだまだオーダーまでの流れを整理する必要など、課題が多数あり実用化にはまだ時間があるようにみえます。
ECプラットフォーム側でどのあたりまでそうした新たな商習慣に対応できるかが問われそうですが、まだ現実には始まっていません。
IoTやスマートスピーカーからのオーダーなどはECプラットフォームとしてはまだ先の話になると考えられていますが、昨年秋にgoogleがECへの連携をさらに強めることを宣言しています。
googleショッピングは検索結果の上位に表示されることもあり、ECプラットフォーム側としても連携できる状況を作っておくことが今後ますます重要な要素になってきそうです。
去年強かったECプラットフォームの仕様
昨年に限った話ではありませんが、D2Cの強化、O2Oに関わる流れは未だに強くあります。もっとも見られるパターンは注文をネット、商品のピックアップを実店舗でという流れです。
また、チャットやZoomの利用など対面に近い接客がその後の購入ユーザーロイヤリティを高める傾向が強くなっています。そのため、こうした接客ツールの導入が一つ重要な要素を握る傾向も出てきました。
そうした中でLineをチャットがわりに使いながらCRMシステムにも反映させるという流れがECプラットフォームの中でも重要な動きの一つとなってきました。
とはいえ、ECプラットフォームに参加する形になるモールでの導入では各事業者が対応できる話ではありません。ですのでこうした部分は自社サイト、つまりカートASP以降での構築方法を用いた話になります。
国内最大手のカラーミーショップでもこの数年、接客に関わるプラグインを強化しています。同社ではチャットのプラグイン自体は以前から存在していましたが、その情報をCRMに取り込むことが重要視してきています。
きめ細かいフォローをするためにも、マーケティング戦略として利用するためにも、ただの問い合わせ窓口ではなく、活用できる情報として顧客対応を蓄積しておくことができることが重要です。
そのため、プラグインも顧客情報のデータベースと接続できることがECプラットフォームに求められています。ECでの販売力を高めるためには集客も重要ですが、このことはその後のコミュニケーションの重要性が高くなってきているということを示しています。
もう一つの流れはgoogleマーケットとの連携です。買い物という行為は、やはり検索と強く結びついている現状があります。この1〜2年で多くのカートASPがGoogleショッピングとの連携機能を搭載するようになってきています。これは検索結果の上位に表示されるため、ECプラットフォームとしては連携させない手はありません。ですので各ECカートベンダーとしても対応せざるを得ない状況になっているといえます。
もちろん各ECパッケージベンダーやSaasでのサービス提供をしているベンダーは早期に連携を可能にしているところがほとんどです。もっとも、こうした事業者はASPシステムと比較すると改変が難しくありません。結果的にこうした対応の速さでは上位のECプラットフォームが優位にたっていると言っていいでしょう。
2023年のEC業界の動きを予測
実際のところ、国内のEC市場はここ数年の追い風が落ち着くことで淘汰の時代に入っていく可能性が高くなっています。そのため、小手先でのマーケティングテクニックや株主対策で資金調達のためだけのテクノロジーを謳っていたサービスは、今後さらに苦戦を強いられる可能性があります。
今年になって注目されているのは「アジャイル型」のマーケティングスタイルです。アジャイルとは「俊敏」「すばやい」といった意味があります。
マーケティングプランが立ち上がってから短サイクルで様子を見ながら実際に戦略やシステムを変化させて調整していくのがアジャイル型の特徴です。こうしたスタイルにECも対応していくことが求められています。
そのため既存のカートASPは多くの変化を柔軟に求められる可能性があります。現状はASPは乱立しているともいえる状況ですが、今後淘汰されるベンダーが出てくる可能性はより高くなっています。また、そもそも事業者側も選択する段階で柔軟な対応のできないECプラットフォームを選択しない傾向が強くなっていくでしょう。
コロナでの巣篭もりが完全に落ち着くと思われる今年は、副業、あるいは業態変換で出店していた事業者が大きく減少することが予想されます。そのためインスタントECは停滞する可能性があります。そうした状況を予測してBASEは新たな料金プランを発表するなど先手を打つべく行動しています。
またWEB広告のインハウス化がさらに進むことが予測されています。ただ、資金を預かって運用するだけの代理店は淘汰されていき、マーケティングプランも混みで一緒に戦略を練り、実施を共闘していくタイプのコンサルタントが生き残っていくことが予測されます。つまりはECプラットフォームとしても、インハウスでの運用に耐えうるだけの分析機能を持つ必要性が高まっています。
分析という面ではGoogleアナリティクスへの新バージョンであるGA4への移行を今年は本格的に迫られています。旧バージョンを強制的に移行することになっているため、2023年の前半にその対応が必要です。当然各ECプラットフォームはGA4に対応する必要が仕様として必要になってきています。
Shopifyの減速気配
ここ数年、日本国内でも飛ぶ鳥を落とす勢いだったのがカナダ発のカートASPであるShopifyです。プラグインを多くのパートナーが開発し、彼らがマーチャントと呼ぶ出店者が柔軟に活用できるため、新たなテクノロジーを気軽に活用できる状況を作っていました。ECプラットフォームという呼称を牽引してきた存在でもあります。
世界的にもECでは一強となっていたAmazonを脅かす存在となっており、注目の新興企業として注目の存在でした。
コロナ以降、世界的に巣篭もりするという状況になったことで、ECサイト開設の需要は大きく高まりました。その後、2021年後半あたりから世界的には日常に戻りつつあり、現状では英語圏の多くの国が日常を取り戻しています。その戻りは急速でした。
Shopifyは日本での存在感を2018年ごろから急激に高めていました。そして、結果2020年に入り急速に日本国内でのシェアを広げ売り上げを伸ばしました。つまりそれはShopifyを選び、ECサイトを開設する企業や個人が急速に増えたことを示しています。
急速な伸びは急速な後退を引き起こしました。世界の状況回復に伴って大きく売り上げを減速させたのです。その結果、2022年の後半にShopifyは人員整理をする判断を下しています。
この人員整理は先読みした結果ではないかと考えますが、単純にShopifyの業績についてだけの話ではないように見えます。
つまり、これはただ右肩上がりにきていたECについて、そうではない状況が生まれたということを指しています。まだ伸び代のある状況は続いていますが、その質は確実に変化してきているということがはっきりと見えてきています。
つまり、ECプラットフォームについて、より慎重な導入と戦略的な運用がますます必要になってきていることをこれらのことが示しています。
O2Oの活発化は避けられない
日本はコロナからの回復が比較的遅れている状況にあります。そのため、昨年の世界的な動きを考慮することで2023年以降の動向をある程度予測することができると考えます。
ここ数年、ECで注文し、店舗で商品を受け取るといったパターンなどで、オンラインとオフラインをつないで対応していくことで売り上げを伸ばしていく企業がほんとうに増えてきました。
これは大手も中小も同じで、WEBでのマーケティングを実店舗へのコンバージョンに生かしたり、決済だけをWEBで完了させるなど柔軟な対応を総合して実施できることでユーザーの便利さを飛躍的にあげることに成功しました。
店舗での売り上げをメインにしていた企業がECを始めるパターンだけでなく、WEBだけの販売だった企業が実店舗を開設するというパターンも出てきています。
こうした動きが強化される流れは日本でもますます高まりそうです。これは消費者の心理状態とも大きく関係します。今まで控えてきた移動について、その制限が解除されることでその動きはより大きなものになります。
まだ政治的な動きははっきりしているわけではありませんが、2023年はより人流が大きなものになる一年となりそうです。
また、インターネットの利用がそれにともなって減るのかといえばそうはならないようです。多くの人の中にインターネットで欲しいものや行きたい場所などを事前に、あるいはその場で調べる習慣ができています。つまり行動の起点にインターネットが存在しています。
ECを事業として展開している場合は、そのままECへのコンバージョンへの道筋を描くこともできますし、実店舗へのコンバージョンへその行動をつなげるということも考えられます。
そのうえで、選択肢はユーザーにあるということもあります。ただ、「行動したい」という衝動自体は小さなものではありません。そう考えるとO2Oでの取り組みは理にかなっています。
オンラインとオフラインの間での動きは今後さらにシームレスになっていくと考えられます。そのためECプラットフォーム自体もECだけについて何かが可能なものということではなく、境目なく商取引全体と連携して様々な対応が可能なシステムとして、文字通り、よりプラットフォームとしての要素をもったものである必要性が高まっていくことが予想されます。
ECプラットフォームそのものがすべてのマーケティングやビジネスのプラットフォーム化をしないまでも柔軟に連携できるものである必要性は高くなっていくのは間違いありません。
ECを取り巻くバズワードに流されず基本回帰の1年と予測
2022年のバズワードに「メタバース」があります。単純にいえばデジタル上の仮想空間のことです。
実際のところ、メタバースというバズワード以前もこうしたデジタル仮想空間はバズワードとして何度か上がってきています。一昔前ですとVR、もう少し前にはセカンドライフなどがありました。VRはある程度、技術やハードウェアとして定着した感がありますが、大きな流れになっているかといえばまだまだです。
そこで今度はメタバースが大きなトレンドワードとして登場してきたという印象です。ECと関連して言われているのはメタバース上で決済できるようにするといったことです。これはある程度の市場になると思われますが、必ずしも大きな市場になり、今年それが結実するかというと難しいといわざるを得ないでしょう。
まず、メタバースは話題のための話題、情報のための情報という感じが少なからずします。特にEC界隈は投資なども絡み、意図的なバズワードが少なからず存在するからです。
しかし、EC自体はもっと一人一人の生活に根付いたものとなってきています。単純なテクノロジー一つでどうにかなるものではないということも事実です。
また、注目されるもう一つのトピックはセキュリティです。決済に関わる不正はECでの市場規模に比例して増加傾向にあります。3Dセキュアの導入や生態認証などがより活発に取り入れられていく状況は強くなっていきそうです。
まとめー結局求められるのは機敏な反応と挑戦
繰り返しますが今年は人流や行動にともなって日本国内のECも大きな変化が起こるのではないかと予想されています。
実際にコロナ禍へ突入した2020年には逆のことがあり、大きな変化がECに対するニーズに対し発生しました。
それに加えてこの数年のテクノロジーに関する変化は大きなものがあります。今まで大きなコストを要して導入していた技術が、簡単に安価で利用できるようになってきています。
そうした中で求められるものは、変化への対応とその変化への挑戦ではないかと考えます。ECプラットフォームに求められるものはそうした変化へ対応できること、そしてチャレンジできる柔軟性をもっているかどうかという点に落ちてくるのではないかと考えられます。
結局のところECの役割をよりマクロに見ていく必要があります。それはECは人とものやサービスをつなぐものであるということです。
そして人も商品も多様化しています。より魅力的な商品があるということの重要性は変わりません。その上で、出会いの場としてのEC、購入の道筋を作るためのECということは変わりがありませんが、それぞれの人の行動は一つではありません。大きな流れをつかみながらより多様化した行動にどれだけ対応していくことができるのかということがより重要になっていきます。
これはアジャイルが注目されていることを考えても必然的な流れといえるでしょう。
単純にECだけのコンバージョンだけでなく、様々なチャネルを通した魅力の訴求ができること、そしてより安全性の高い利用環境がECプラットフォームに対して、さらに求められることになるでしょう。
ABOUT US
この記事を書いた人

鈴木隆太 株式会社Caina
1975年生まれ。会社員から2004年よりライターとして活動。雑誌を中心にネット移行への過渡期を経験。主に音楽、文化、医療、マーケティングなどについて執筆。ライター外ではマーケティング、コーチング等。